豆板醤は、辛味とうまみをあわせ持つ、中国の伝統的な発酵調味料です。
スーパーや専門店で購入することがほとんどですが、実は家庭で手作りできます。
この記事では、日々さまざまな発酵食品を手作りしている管理栄養士が、豆板醤の作り方を紹介します。
手作り豆板醤の保存方法や、作り方に関するよくある質問についても解説するので、家庭で豆板醤を手作りしてみたい方は参考にしてください。
目次
豆板醤の基礎知識
中華料理の辛味付けに欠かせない調味料である、豆板醤。
実は、発酵食品であることを知っていますか?まずは豆板醤の特徴や栄養、本場の作り方を知り、豆板醤についての理解を深めましょう。
豆板醤の特徴
豆板醤とは、そら豆、赤唐辛子、塩などから作られる中国の調味料です。
豆板醤の特徴は、強い辛味と塩味、うまみがあること。
豆板醤が誕生した四川地方では、辛味付けの調味料として欠かせない存在であり、日本でもおなじみの麻婆豆腐や坦々麺などの料理に使われます。
豆板醤のもうひとつの特徴は、そら豆を原料とした発酵食品であることです。
本格的な豆板醤は、そら豆、赤唐辛子、塩、水のみから作られます。
まず、そら豆に麹菌を繁殖させて、そら豆麹を作ります。
そら豆麹と細かくした赤唐辛子、塩水を加えて発酵、熟成させるのが本場の作り方です。
豆板醤は生でも食べられます。
しかし加熱すると香りが立つため、中華料理では豆板醤を油で炒めて、香りと味わいを引き出して使うことが多くあります。
豆板醤の栄養・効果
豆板醤は、塩分が多く含まれることに注意が必要です。
豆板醤小さじ1(約5g)に含まれる塩分は0.9gです。
一方、日本人の1日に摂取する塩分量の目安は男性7.5g未満、女性6.5g未満とされています。
辛味が好きだからと豆板醤を料理にたくさん使ったり、豆板醤を使用した料理を1日に何品も食べたりしていると、塩分を過剰摂取してしまうでしょう。
唐辛子の辛味成分「カプサイシン」には、アドレナリンというホルモンの分泌を促す作用があります。
アドレナリンが分泌されると代謝がよくなるため、脂肪の燃焼が促進されるでしょう。
また体温が上昇して血流がよくなることから、冷え性を改善する効果も期待できます。
ただしカプサイシンの摂り過ぎは、粘膜を傷つけ胃腸が荒れる原因になります。
豆板醤を料理に加えるときは、使い過ぎないように注意しましょう。
コチュジャン、テンメンジャン…違いはなに?
豆板醤の「醤(ジャン)」とは、中国や韓国で使われるペースト状の調味料の総称です。
豆板醤以外にも「醤」の仲間は数多く存在します。
その一部を、以下で紹介します。
コチュジャン(苦椒醤)は、朝鮮半島で誕生した調味料です。
米やもち米、麹、唐辛子を合わせ、発酵させて作ります。
辛味がありますが、米を糖化させているため甘みもあることが特徴です。
日本でも人気のビビンバやタッカルビ、サムギョプサルなどで使われます。
テンメンジャン(甜麺醤)は、中国北部発祥の調味料。
小麦粉と麹、塩を発酵させたものに、砂糖や香辛料を加えて作られます。
辛味は少なく、甘みとコクを感じる味わいです。
麻婆豆腐や回鍋肉の調味料として使われるほか、北京ダックのタレにも使用されます。
豆板醤の作り方
本場の豆板醤はそら豆麹を使用しますが、今回は家庭でも作りやすい「米麹」を使った作り方を紹介します。
粉唐辛子は、韓国食材専門店などで販売している韓国産のものがおすすめですが、手に入らなければ一味唐辛子でもかまいません。
粗びき唐辛子をブレンドすると、より本格的です。
材料(作りやすい量)
- そら豆
- 正味100g(さや付きで400〜500g程度)
- 米麹
- 15g
- 粗塩
- 15g
- 粉唐辛子
- 15g
- そら豆のゆで汁
- 大さじ1/2〜
作り方
- 鍋に湯を沸かし、さやから取り出したそら豆を3分ほどゆでる。ゆで汁を取り分けて、冷ましておく。
- 薄皮をむいてポリ袋に入れ、袋の上から手でつぶす。
- 米麹、粗塩、粉唐辛子を加え、袋をもんで混ぜ合わせる。
- そら豆のゆで汁を加えて、固さを調整する。
- 清潔な瓶を用意し、できるだけ空気を入れないように少量ずつ瓶に詰める。
- 表面が空気に触れないようにラップでぴっちり覆い、ふたをする。
- 直射日光が当たらない常温の場所に3〜6ヶ月ほど置いて、発酵、熟成させる。
豆板醤の保存について
豆板醤を発酵させるのは常温ですが、できあがったものは冷蔵庫に入れて保存しましょう。
冷蔵庫に入れると、半年ほど保存可能です。
手作り豆板醤を長く保存するには、煮沸またはアルコールスプレーで消毒した清潔な瓶に詰めて発酵させてください。
豆板醤が完成したあとも、清潔なスプーンを使って取り出しましょう。
手作り豆板醤に関するQ&A
ここでは、豆板醤の作り方に関するよくある質問に回答します。
そら豆以外の豆でも作れる?
大豆や枝豆などの豆類でも、同じ作り方で豆板醤に似た発酵調味料は作れます。
しかし豆の種類が違うと、そら豆から作った豆板醤とは異なる香りや味わいに仕上がります。
身近にある豆から豆板醤を作り、味わいを比較するのもおもしろいでしょう。
食塩の量を減らしてもいい?
塩分を気にして、減塩の豆板醤を作りたいと考える方がいるかもしれません。
しかし今回紹介した作り方では、塩分を減らさないでおきましょう。
野菜に塩をまぶすと、水分が出てきます。
同様に、塩分濃度が高いところに雑菌が侵入すると、雑菌も脱水して死滅します。
また、雑菌の繁殖には水が不可欠です。
塩は食品中の水と結合するため、雑菌に必要な水が奪われて繁殖できなくなるのです。
このように塩分には、発酵中の雑菌の増殖を防ぐ役割があります。
豆板醤の発酵と熟成をうまく進めるために、塩分量は守りましょう。
豆板醤を手作りして、おいしい料理を作ろう
中華料理に欠かせない豆板醤は、そら豆を原料とする発酵調味料です。
本格的な豆板醤は、そら豆に麹菌を繁殖させた「そら豆麹」から作られます。
しかし米麹を活用すれば、家庭でも手作りできます。
発酵と熟成には時間がかかりますが、完成したときの豆板醤の味わいは格別でしょう。
今回紹介した作り方を参考にして、手作り豆板醤にぜひ挑戦してみてください。
【参考文献】
文部科学省:「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」
農林水産省:「カプサイシンに関する詳細情報」
辻調グループ:「豆板醤の作り方」
塩の情報室:「塩と細菌の話」
名古屋学芸大学:「食品中の水の不思議:結合水」